《石津祥介のおしゃれ放談》
コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務の導入が広がり、カジュアルな服装で仕事をこなすスタイルが浸透しはじめた。一方で百貨店やセレクトショップが休業を余儀なくされ、旬の服に触れる機会は激減。装いを楽しむファッション消費は全般に「不要不急」とみられがちだ。こんな状況にある今こそ「装う、ということを真剣に考える好機」と話すのが服飾評論家の石津祥介さんだ。苦境を抜けた後に自分はどんな装いに関心を寄せたらいいのか、自宅にこもりながらも前向きに思考をめぐらせてみよう、と提案してくれた。
■家にいる今こそ ベーシックな服を着直してみる
――景気後退期には服装がトラッドに回帰すると言われます。今も流行のファッションに目を向ける空気ではありませんね。
「その言葉にある『トラッド』を、日本では一つの流行を示すものとして使っているけれど、本来は流行の対極にある概念なんです。つまり、ベーシックな服ということ。僕はね、外出の自粛を余儀なくされている今こそ、流行からいったん離れて、ベーシックに戻る、ベーシックを着直す、いいタイミングなんだろうと思います」
「例えばベーシックにも組み合わせのルールがある。気候だとか、そのときに会う人だとか、どういった会に参加するかだとか、そのときに置かれる自分の立場に合わせたコーディネートがあります。今改めて、普段から着慣れた服を使って、様々なシーンにふさわしい組み合わせを考えてみるのもいいんじゃないかな」
――今のような時間を利用して訓練してみるということですか。
「そう。最近のビジネススタイルでは、ドレスアップ、ビジネス、カジュアルといった区分けの壁がなくなりつつありますよね。顕著な例は、仕事でスニーカーを履くことでしょう。新しい着こなしが生まれているんです。今の生活にふさわしい服を、今まで持っているベーシックなアイテムの中から選んで、新しく着る。コロナ騒動をへて男の服は、そうした着こなし方に変わっていくのではないでしょうか」
――ワードローブを点検して、いらないものを断捨離する人も増えているそうです。
「家に長くいますからね、いやでも目についちゃうのでしょう。ただ大事なのは、捨てる、という発想よりも、ワードローブを見直す、という発想かな。自分の洋服を全部着てみる。姿見を用意して一人ファッションショーをやってみる。そうすることで、自分を客観視して、ぴたぴたのスーツはやっぱり変だな、なんてことがわかるわけ。捨てようかと思っていた物が、実は思いのほか今っぽい、捨てるのやめよう、というケースも結構あるはずです。すると、今度はほしいものが見えてきます。コロナが収束したら何を買おうか、と考えるのも楽しいよね」
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