「僕らが売っているのは必需品ではなく、(このパンデミックによって)嗜好品だということがはっきりした」
実店舗の未来をテーマに開催された「VOGUE GLOBAL CONVERSATIONS」最終回でこう口火を切ったのは、アメリカの百貨店、ノードストローム社長のピート・ノードストロームだ。このディスカッションに参加したのは彼の他に、モデレーターを務めたイタリア版『VOGUE』と『L’UOMO VOGUE』の編集長であるエマニュエレ・ファルネティと、トリー・バーチ(TORY BURCH)CEOのピエール・イヴ・ルーセル、そして19世紀に開業したイタリアの老舗百貨店、ラ・リナシェンテのオーナーであるヴィットリオ・ラディーチェ。新型コロナ禍のあおりを受け閉店の決断をした経緯や、実店舗という物理的リテールの未来について議論した。
ノードストロームの発言に対して、「ニーズ(必要性)とウォンツ(欲求)の違いを再認識することが大切だ」と語ったのはラディーチェ。ルーセルは、「欲望や感情を生むのが僕らのビジネス。それを忘れるべきではない」と続けた。
パネリストたちが皆「実店舗の信者」という点で意見が合致すると、ラディーチェはこうまとめた。
「問題は、実店舗という形態をどう未来に順応させていくか。地理的な場所、家賃、店舗、ウィンドウ、店舗の分布といったワードは、未来の世界に存在するのか、僕たちはまだわからない」
それでは以下に、今回のディスカッションのハイライトを紹介していこう。
Eコマースと実店舗の共存と融合。
NYのマンハッタンに2018年にオープンしたノードストロームのメンズ館。ノードストロームは1901年に創業し、現在は100店舗以上を全米、カナダなどで展開している。Photo: Spencer Platt/Getty Images
「実店舗を独立した存在とする考えは、特にアメリカではもう過去のものだ。ここ数年で、オンラインショップと実店舗がお互いをサポートする関係性にシフトしてきている。その結果、カスタマーがその2つがシームレスに体験できるようになってきた」
先駆的なデジタル施策を先んじて導入してきたノードストロームに同意しながら、ルーセルは「オムニチャネル」の価値について、こう考えを述べた。
「僕はEコマースと店舗、その中間にあるハイブリッドな空間における顧客とのコミュニケーションも含めて、すべて信じている。今の顧客は、店舗とオンラインショップ、ソーシャルメディアを自由に行き来するオムニチャネル・カスタマー。彼らは、店舗のみ、またはオンラインショップのみを利用する人に比べ、4倍もの金額を使っている。顧客に複数のタッチポイントを提供することの価値がよく分かる事例だろう。顧客にとってはもちろん、僕らにとっても大きな価値であることは明らかだ」
では、ブランドが自らのアイデア、コンテンツ力、そして顧客ベースを互いに競合させることなく、デジタルプラットフォームと物理的プラットフォームの間にシームレスなコミュニケーションを築くには、どうすればいいのか。パネリストたちの総意は、「それぞれのタッチポイントに個性や特別感を与える」というもの。実店舗は人が集まり、カスタマーサービスの拠点となる空間で、一方のインターネットは、デジタルコミュニティを築き、シームレスなショッピングを可能にする場という点でも、彼らは同意見のようだ。
ルーセルは、90年代以降に生まれたZ世代の消費者の82%が、オンラインより店舗でのショッピングを好むというデータを紹介しながら、自宅隔離中に生まれた新しい販売チャンネルを教えてくれた。トリー・バーチでは、販売員たちが自宅から顧客とコミュニケーションを取っており、好実績につながっているという。
「販売チャネルごとには見ずに、顧客中心的な観点から見るのが正しいアプローチであることを学んだ」
今後、実店舗の目的が変化していくのであれば、そこでの業績を別の方法で計る必要があるとルーセルは指摘する。
「売り場面積あたりの売上という伝統的な物差しはもういらない。ライフタイム・バリューやつながり、そして、あらゆるタッチポイントとユニークな体験を提供するという、これまでとは異なる価値で計るべきだ」
コミュニティ醸成の場としてのリテール。
ヴィットリオ・ラディーチェが経営するイタリアの百貨店、リナシェンテは、1865年創業。写真は1965年のクリスマスシーズンの店内の様子。Photo: David Lees/The LIFE Images Collection via Getty Images
「販売と関係ないものを置いている店舗を見ると、つい嫉妬してしまう。そのショップが、人と関わり、コミュニティに人を招き入れるための場であることをよく認識している好例だ。消費者としても、とても魅力的に感じるよ」
こう語ったのはノードストロームだ。実店舗が単なる「モノを売る・買う」という「取引」の現場に成り下がると、顧客の感情はとたんに興ざめしてしまうという。ルーセルはこう断言する。
「販売する商品以上の価値を与え、常にイマジネーションを働かせながらカスタマーとのつながりを構築し、彼らが何を求めているのかを敏感に察知できるブランドこそが、これからも生き残ることができる」
店舗運営の豊かな経験を持つラディーチェは、リテール空間における「感情」の価値をこう信じている。
「商品、店舗のしつらえ、顧客との話し方、使うツールのすべてにおいて、感情を、そして個性を表すべきだ。僕たちは、店舗を単なるモノを売る店というより、顧客にとって安心できてフレンドリーで、いつでも温かく迎えてくれる場所と捉えている。店舗営業が再開され次第、安心を与える場所としての機能がさらに重要になるだろう」
営業再開の先に見据える未来。
3月22日時点のNYのマンハッタンの様子。ショップやオフィスは閉鎖され、通りに人影はない。Photo: Spencer Platt/Getty Images
実店舗がいつ再開となるか、その場合どのような条件に従うことになるかは、地域により異なる。ノードストロームのプランはこうだ。
「店舗が営業を再開し始めたら、謙虚に学ぶ姿勢を忘れず、カスタマーに対してさらなる責任感を持って接しようとスタッフたちと話している。これからの店舗での体験がどのようなものになるべきか、顧客に寄り添いながら進化させていきたい」
ラディーチェが経営するラ・リナシェンテは、複数階で構成される百貨店だ。彼は、営業再開時には各売り場の営業時間をあえてずらし、徹底的な清掃スケジュールを導入し、また店内ではマスクを着用するなどの取り組みを検討しているという。
「店舗面積が広大で複数階にまたがるため、人々が適切なソーシャルディスタンスを保てるようなシステムを考案している。この状況に対応するためには、まったく新しい接客ルールを導入する必要があるのは明らかだ」
ノードストロームも頷く。
「これからどうなるかを正確に予想することは不可能。だから何より、フレキシブルに考え対応することが重要だ」
変化を求められる業界システム。
NYのマンハッタンにあるトリー・バーチのショップ。Photo: David Howells/Corbis via Getty Images
2〜3月に秋冬コレクションを発表し、入荷が始まる7月ごろからセールが開始される11月ごろまでに販売するという従来のファッションカレンダーも、見直しを迫られている。ラディーチェは意見を求められると、こう肩をすくめた。
「この問題は、コロナ禍よりずっと以前から議論されてきたことだ。かつてファッション業界はもっと小さく親密な場所だった。その時に最適とされたシステムが、巨大化した現在も通用すると思うこと自体、おかしいと思う」
パネリストは3人とも、既存のシステムを改善する具体案をあげることは避けたものの、ルーセルは、業界の最大公約数となる有効かつ常識的アプローチを見つけることが重要だと指摘する。例えば、「Buy Now Wear Now(今買って今着る)」のアプローチや、シーズンを通じて常に入荷があるというようなデリバリーのあり方、そして値下げのタイミングを遅らせる施策は、将来的に有効だろうという見立てだ。ノードストロームも賛同する。
「業界の常識と思われていたカレンダーを一度リセットし、我々の都合ではなくカスタマーにとってベストな方法を模索し、開発する絶好のチャンス。常識的なアプローチは、必ず存在する。もし今からこのビジネスを一から始めるとしたら、過去の遺産的なやり方や、その結果として今、僕たちが置かれている現状とはまったく異なる方法を採用するだろう。それを実践するチャンスが今、訪れているんだ」
彼らがある意味「無謀」だとする現在のシステムが更新され、肥大したコレクション規模が常識的な範囲へと縮小し、シーズンを通じての入荷が一般的になった暁には、定番商品がより重要になってくると指摘するのはルーセルだ。
「そうなれば、アイコニックでタイムレスな人気を誇る商品を持つブランドが有利だ。危機的な状況では、特にその傾向が強まるだろう。そのような商品を築くには時間がかかる。それを守っていかないといけないね」
ラディーチェはそこに、「優れたデザイン」の重要性を加えた。
「自分が売る商品は、どれも自分が欲しいと思うものでなければいけない。あらゆるアイテムのデザインや製造方法、そして販売方法にも、これまで以上に品格が必要とされる時代になるだろう」
【過去のセッションを振り返る】
・創造性の未来
・サステナビリティの未来
・ファッションショーの未来
・Eコマースの未来
#VogueGlobalConversations
Text: Steff Yotka
"ファッション" - Google ニュース
April 18, 2020 at 06:00PM
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問われるファッション業界の品格──ポスト・コロナの店舗の未来。【VOGUE GLOBAL CONVERSATIONSレポート】 - VOGUE JAPAN
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