オランダ人クチュールデザイナーのイリス・ヴァン・ヘルペン(Iris Van Herpen)は、3Dプリントや3Dデザインテクノロジーを活用したウエアで知られる。毎シーズン、オートクチュール・ファッション・ウイークでショーを行なっているが、2年前からはサイバースペース(コンピューターやネットワーク上の仮想空間)活用の準備を開始。7月に向けて2020-21年秋冬コレクションの制作と同時に、より多くの人がその異世界的なクリエイションに浸れる“没入型バーチャルリアリティー(VR)体験”を手掛けているという。ファッションの感動をデジタルの世界にもたらすことはできるだろうか?彼女が考えるファッションの未来とは?
WWD:「イリス ヴァン ヘルペン(IRIS VAN HERPEN)」はハイテクなインスピレーションと最先端のテクニックで知られているが、物理的なショーが主なコミュニケーションツールであり続けている。それはなぜか?
イリス・ヴァン・ヘルペン「イリス ヴァン ヘルペン」デザイナー(以下、ヴァン・ヘルペン):私はダンス経験者なのですが、その物理的な緊張感や立体的な側面は私の作品を象徴するものであり、作品のおける原動力でもあります。そして、物理的なランウエイショーでは非常に美しく表現することができるのです。今のところ、そういったプレゼンテーションを続けていくけれど、未来にとってサステナブルではないから、ファッション業界はショーを減らす必要があると考えています。その点、デジタル・プラットフォームは異なる可能性を秘めています。
WWD:ほかに物理的なショーで好きなところは?
ヴァン・ヘルペン:本当に好きなのは、人間的な側面や物理的に皆が一緒にいることが生み出すインパクト。それは、ライブコンサートのようなものです。どのように音楽を感じるかということは、ファッションショーを見たときに実際どのように服を感じるかということに似ています。それは化学反応のような相互作用であり、もちろんバーチャルリアリティーとは異なるでしょう。一方、デジタルの世界には、現実を一変させるための大きな可能性とある種の創造性や自由があるので、私はそこを探求していきたい。フィジカルとデジタルは、互いを高め合い、補完し合うことができると思います。
WWD:7月のオートクチュール・ファッション・ウイークは中止になった。デジタルでの実験には絶好の機会だが?
ヴァン・ヘルペン:今は、さらにデジタルの世界に踏み込む興味深いとき。私の作品は、現実世界ではすでにそこに取り組んでいて、極限まで物質性に挑んでいます。一方、バーチャルの世界では、動きや透明感、複雑な動きをディテールまでとらえるのは本当に難しい。でも、それは実現しつつあります。技術は進化を続けているので、そのための一歩を踏み出すには本当に良い瞬間だと感じています。
WWD:現在開発中の没入型VR体験とはどのようなものか?
ヴァン・ヘルペン:新しいコレクションと並行して同じアイテムのVR体験を制作しています。ただ正直なところ、このような方法に取り組むのは初めてなので、本当に実験のようなもの。物質性、感情、そして私の作品にとって重要な3次元性を再現する実験です。
WWD:クリエイションにおけるテクノロジーの活用についても教えてほしい。
ヴァン・ヘルペン:クリエイションは、さまざまな要素のミックスで成り立っています。例えば、ディテールは手でスケッチするものもありますが、その他は「マヤ(MAYA)」や「ライノ(RHINO)」というソフトを使って3Dでデザインします。技術的なファイルは「イラストレーター(ILLUSTRATOR)」で作ることが多いですし、「グラスホッパー(GRASSHOPPER)」も活用しています。特にこれらのソフトはデザインの初期段階で用いることが多いですね。そして、よく「ハンドメードなのか?3Dプリントなのか?」と聞かれるのですが、現在のところ、その答えもミックスと言えます。異なるプログラムを用いた過程ではあるのですが、最終的には手仕事でもあるので。
WWD:デジタルショーは、ある意味ファッションを民主化するものと考える?
ヴァン・ヘルペン:観客の多くは、ウェブサイトやインスタグラムでしか私の作品を見ていません。だから、誰もが作品の立体感や真のエモーショナルな部分を体験しているわけではないのです。(デジタルによって)それらをより多くの人々に届けることができるという可能性には、とてもワクワクしています。
WWD:新型コロナウイルスの大流行による影響を受けて、デジタルフォーマットは広く普及すると思うか?
ヴァン・ヘルペン:今は皆にとって本当に重要な瞬間で、生産方法や旅の仕方、ショーや撮影への取り組み方など私たちの選択に変化をもたらすでしょう。そして、サステナビリティへの注力は、今後ますます強まっていくと思います。
感情や職人技はデジタルで伝えられるか?
WWD:物理的なファッションショーのエモーショナルな部分をデジタルの世界にもたらすことはできる?
ヴァン・ヘルペン:突き詰めるとイエスですが、時間は必要。例えるなら、新しい楽器を習うようなものでしょう。新しいツールには常に探求が必要であり、自分の言語を表現できるようになるまでには時間がかかります。ただ、いずれはバーチャルリアリティーの中でも服の持つエモーショナルな面を伝えられるようになると感じています。
WWD:では、クラフツマンシップはどうか?
ヴァン・ヘルペン:デジタルは、クチュールアトリエの美しいプロセスを表現するための本当に素晴らしいプラットフォームになると思います。今私たちがやっていることは、アトリエでの過程を撮影してビデオで共有しているだけなので、ある意味限られています。しかし、そのプロセスには多くの愛と感情が込められていて、それを観客の皆と共有できるなら最高ですよね。特にオートクチュールの場合は、一つの作品の完成までに長い時間や幅広い職人技と専門知識が必要。そして、「イリス ヴァン ヘルペン」のコレクションは建築と科学と生物学のコラボレーションなのですが、その部分を表現したり共有したりということは、まだあまりできていません。その一部を、目の前で出来上がっていく服を見ることができるようなVR体験に持ち込むことができればいいなと思っています。それに、まだまだ多くの人はクチュールがどのように作られているかを知りません。これらの新しいツールを取り入れることで近い将来、もっとたくさんのことを共有できるようになると信じています。
WWD:インスピレーションや新たな可能性を得るために、他にどんな業界に注目している?
ヴァン・ヘルペン:インスピレーションもコラボレーションも、さまざまな分野から来ています。建築は私たちがよく一緒に取り組む業界ですが、そのほかにも大学やハイテク企業、生物学者、科学者ともコンタクトを取っていますよ。これらのミックスがコレクションに生かされるのですが、このような継続的な対話はモノ作りの過程の中で本当に重要な部分です。
WWD:未来に向けて、ファッションはどこに進んでいると考えるか?
ヴァン・ヘルペン:個人的には、ファッションはもっと周りの世界と絡み合うことができるし、広い範囲での協業を実現できると信じています。私たちは、サステナビリティへの大きな一歩を踏み出すために、科学やテクノロジーとのコラボレーションを視野に入れるべきです。私自身が示したいのは、オートクチュールはファッションにおいて本当に重要な要素だということ。オートクチュールはサステナビリティの実験室として、未来の新たな変化の可能性を見つけるための開発と実験の源となり得るのです。また素材開発や生産においても、今以上の多くの可能性を秘めていると思っています。業界のスピードがその進歩の妨げになっているのではないでしょうか。だからこそ、この“立ち止まる”瞬間は、より持続可能な未来のための新たな素材や製造技術を見つけるために、実際私たちが協力し合うことができるということを示す上で大切。私は、皆がこの瞬間を受け入れ、企業間やブランド間のコラボレーションの機会や代替案を探し始めることを願っています。ファッションは、もっとコミュニティーのようになるべき。そうすることが、サステナビリティの中で前進していくことにつながると思います。そして、自分たち自身が変わるだけではなく、みんなで一緒に対話をしていくべきだと考えています。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員
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May 01, 2020 at 11:03AM
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