新型コロナウイルスの騒動が広がる前の2019年12月に開催された「ビザ・ファッション・ウイーク・アルマトイ(VISA FASHION WEEK ALMATY)」に参加してきました。同イベントは、カザフスタン南東部の都市アルマトイで年に2回開催される中央アジア最大のファッション・ウィークとして知られており、私が参加するのは今回で2回目となります。日本からアルマトイまでの直行便はなく、仁川経由で約11時間、私が暮らすパリからはインスタブール経由で約8時間でした。通貨はテンゲ(100テンゲ=29円)で物価はかなり安め。ファストフードのセットメニューで300円程度、庶民的なレストランでのランチが600円程度です。今回滞在したホテル「リクソス(Rixos)」は一泊約18000円と、5つ星にしては安価です。
自然の宝庫だった
1997年にアルマトイからヌルスルタン(旧名アスタナ)に還都し、最大都市であるアルマトイが文化や流行の中心地として知られています。地元の方々にカザフスタンの魅力を聞くと「大自然」だと多くの方が口にしていました。確かに、街中どこにいても天山山脈の支脈を望むことができる大自然の宝庫です。ファッション・ウイーク中には、最もメジャーな観光名所であるビッグアルマトイ湖に連れて行ってもらいました。中心地から30kmほど離れた、山々に囲まれた貯水湖は美しいエメラルドグリーン色。湖面はまだ凍っていましたが、その表情もまた絶景でした。湖から街へ戻る山道では、放し飼いにされているサモエド(シベリア原産の犬)に遭遇!人懐っこくスマイルがとても可愛くて、山の女神に会えたような幸せな気分でした。
街はとにかく大きくて、どこへ行くにも基本的に車移動です。とは言っても、美術館や歴史的建築物などの観光名所はほとんどありません。街中には旧ソビエト連邦時代の社会主義国に特有の幾何学柄の巨大建築物や、近未来的な様式の高層ビルが建ち並ぶものの、通りは閑散としていました。買い物といえばショッピングモールや米百貨店のサックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)がありますが、カザフスタン特有のお土産品などは売られていませんでした。国の経済を支えているのは石油や天然ガスなどのエネルギー資源で、鉱物資源に恵まれた資源大国です。製造業や観光業には力を入れていないことが、街中の散策からも見て取れました。
野菜が極端に少ない食文化
食に関しては多様な食文化を有しています。遊牧民としての歴史からか、畑を耕さないために野菜料理は極端に少なく、肉と乳製品、小麦粉が主です。珍しいのは馬肉を食べることで、馬やラクダのミルクも一般飲料のような感覚でした。国民の70%ぐらいがイスラム教を信仰していますが、豚肉も普通に食されています。「カザフスタン特有の伝統料理が食べたい!」とお願いして地元の方に注文してもらったら、まず出てきたのがマンティと呼ばれる餃子のような食べ物。肉汁たっぷりの牛挽き肉にコリアンダーと胡椒が効いていて食欲をそそる、前菜にぴったりのメニューでした。小麦粉を使った麺料理のバリエーションもとても多く、私が気に入ったのはラグマンと呼ばれるヌードルスープです。牛肉の出汁をベースとするスープにトマトとパプリカのペースト、クミンと少しのカレー粉が入っており、濃いめの味ですが油分は少なくてどんどん食べ進められました。麺はうどんのような太さと長さでしっかりコシがあるタイプ。もう一つ代表的な伝統料理が、ベシュバルマクと呼ばれる平たい麺の上に馬肉と玉ネギがのったメニューです。かつては手づかみで食べていたことから、麺はつかみやすいように平たい形状をしているとのこと。大きな鉄鍋で馬肉を煮込んで出汁をしっかりとり、味付けは塩胡椒だけとシンプルです。臭みもなくあっさりしていて、おいしかったです。カザフスタン料理はベジタリアンの方には食べられるメニューがとても少ないかもしれませんが、全体を通してなじみやすく食べやすいメニューが多かったです。
ファッションはまだまだ発展途上
肝心のファッション市場はというと、ファッション・ウイークを催す国の中では最も後れていると感じました。ファッション・ウィーク中に披露されたのはわずか9ブランドで、ドン・キホーテに売られていそうな安価なスポーツウエアや、イブニングドレスを少し改良したような質です。生地や縫製のクオリティーに関しては、ジョージアやウクライナといったその他のファッション途上との差はあまり感じませんでしたが、クリエイションの質に関しては圧倒的に低い印象を受けました。前季のコレクションで目を引いたのは「ジェレプツォフ(ZHEREBTSOV)」という、ロック精神に溢れた奇抜なショー演出を行うベテランデザイナーでした。今季はブラック一色のコレクションで、クオリティーは最も高かったもののオリジナリティーを欠いており、過去のコレクションと変わり過ぎていて顧客はついてくるのだろうかと疑問に感じました。
カザフスタンには伝統的なかぎ針刺しゅうや国旗にも描かれている幾何学的文様、民族衣装など、歴史と文化のインスピレーション源は溢れているはず。カザフスタンなどファッション途上国にはそのような独自の文化をモダンにアップデートしたクリエイションを期待したいところです。2度の渡航でまだ素敵なブランドは見つけられていませんが、彼らが自国の服飾文化や美意識に魅力を見出し、ほかでは見ることのできない独自性を発揮してほしいと願いつつ、今後も注目していきたいと思います。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける
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May 04, 2020 at 08:00PM
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