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コロナで加速するファッション業界のデジタル化、成功の鍵はどこに? - VOGUE JAPAN

同じ時期ににルイ・ヴィトン、バーニーズ ニューヨークで勤務していたというお二人。出会いから20年近くたつ今もなお、ともにファッション業界の最前線で活躍中だ。

──お二人はバーニーズ ニューヨーク時代に親交を深めた仲だそうですね。

島田 実はバーニーズの前にルイ・ヴィトンでも同時期に働いていたんですが、僕は販売員で、麻子さんはカスタマーデベロップメントのディレクターでしたから、顔を合わせたことはないんです。

矢野 そうでしたね。私はルイ・ヴィトンを辞めてコンサルティング会社を立ち上げまして。ちょうど2012年ごろから5年ほどバーニーズのお手伝いをさせていただくことになったんです。

島田 2012年ごろ、私はバーニーズでCRMやデータベースマーケティング、デジタル化推進といった新しい試みをする部署の責任者でした。当時は膨大な量の会員データはあっても活用できておらず、トップが変わったことで新設された部署で、データをもとにブランドにとって効果的な方法を模索し始めたところでした。矢野さんはそのころに、マーケティング・ブランディングの分野のコンサルティングとしてご参加くださって、矢野さんチームの企画するアクションを私のチームがデータをもとに裏付けや分析・検証をしていく、という役割分担でしたよね。

──デジタルの導入期。どういった活用の仕方、変化がありましたか?

矢野 マーケティング分野では、顧客データをもとに誰に対してコミュニケーションをしていくか、その上でちゃんと効いているのかを検証していく。そういった使い方でしたね。当時はインスタグラムやメリーのようなデジタルメディアはあったけれど、バーニーズのターゲット層とは違ったので、リアルイベントや雑誌へのアプローチがメインでした。

島田 データ面で考えると、実はそれまで求められていると思っていたポイントや値引きはベストな選択ではなかったことが分かりました。顧客へのアクションを蓄積データから検証することにより、実際にはファッションに関連する“体験型のサービス”を求められていることが分かり、顧客戦略の全体的な見直しを行いました。また同時に、販売員がいつでも顧客データをiPadで閲覧できる状態にし、データ活用を活性化させる環境の整備も進めたのですが、これは大掛かりな変更だったため、導入には苦労しました。でもその結果、LTV(ライフ・タイム・バリュー)の高い優良顧客数が大幅に増加し、売上・利益ともに向上するという成果を残すことができました。この改革は2012年にスタートしたのですが、さまざまなシステム導入による混乱期を経て、表面的にもデジタル活用が実感できるまでは3年ほどかかりましたね。

コロナ禍に見えてきた、ファッション業界の新たな課題とは?

──これまでゆっくりと距離を縮めてきたファッションとデジタルが、コロナによって急速に縮まったような印象があります。

島田 コロナ禍で数ヵ月も自粛を余儀なくされてしまったことで、得手不得手に関わらずリモートワークをしなければならなくなったり、ショッピングもECというチャネルを使わざるを得ない状況になったりと、本来なら2〜3年ほどかかると思われていたマインドチェンジがこの数ヵ月の間に一気に起きましたよね。これはたとえコロナが収束したとしても、すでにデジタルの使い方、その利便性を消費者は学習してしまったので、完全に元には戻らないだろうと思います。

矢野 コロナの影響によって、デジタルへの抵抗感を一気に取っ払えましたし、“やってみる”という最初のハードルを越えられたことは、ある意味良かったですよね。私も自粛生活が明けても、ミーティングの9割はビデオ会議で行っています。そうなると、移動時間が節約できたり、働き方は自然と変化します。

島田 ただ、消費活動においてはこれからですよね。コロナ禍で各社EC化率を上げていく方向性だと思いますが、一般的なアパレル企業のEC売上が全体の約20%、残り約80%を店舗売上が占める現状を考えると、EC売上を前年比150%に伸ばしても店舗の落ち込みを補填するには至らない。商品自体に明確な機能的価値のあるコモディティ品はECで販売するのに適していますが、一定価格以上の嗜好品に近いブランド商材は同様にはいかないでしょう。それは、ブランドのアイデンティティや世界観、ストーリー、デザイナーの考えなど、一連のつながった価値とそれに対する共感や憧れといった情緒的なものが消費を生む業界だからでしょう。こういった体験価値は現状のEC上で顧客に伝えるのはなかなか難しい。これからは、ECでそれをどう実現していくか、うまく考えていかないといけないですよね。

矢野 そうですよね。ファッション業界はデジタル化が遅れているといわれてきましたが、コロナが拡大して世の中が急激に変化したことで、今はまだ各社がその対応に追われている最中です。そんな中、パリコレ・メンズは面白いと思いました。スピード感をもって制作された内容とその手法がさまざまで、ブランドの個性を垣間見ることができる。その中でもロエベは島田さんが言うように、情緒的なものから買うという、ファッションの購買意欲を刺激するような、顧客を楽しませる取り組みをしていました。ショーの前にインスピレーションソースが詰め込まれたボックスを配送したり、24時間かけてオンラインイベントを開催したり。これまでショーだけでは伝わらなかったことを、あらゆる角度から切り取ることでこんなにも背景を伝えられるんだと思い、ワクワク感でいっぱいでしたね。9月にはランウェイが再開されるという話もありますが、トライ&エラーをしながらもリアルとデジタルが混じり合っていくファッションの新しい表現の可能性に期待しています。

島田 面白いですね。コミュニケーションを通じて、どうリアルとデジタルをミックスさせるかが鍵になると思っています。よくクライアントから「スマートストアをやりたい」と相談されることがあるんですが、この業界はそう簡単にはいかない。数値化してはいけない情緒的なものが存在するということが、業界的にデジタル化が遅れた要因でもあるんですよね。

デジタル化でもなくならない、実店舗での“買い物体験”。

矢野 最近、OMOというオンラインとオフラインの垣根を取っ払って構築するマーケティング概念が主流ですが、“融合させる”という考え方で可能性が広がる気がします。例えば、ビデオ会議は便利ですけど、会議中の空気を読んだり、あえてその空気を壊したりというのは、今の技術ではまだやりづらくて、やっぱり面と向かって話さなければならない場面もあるんですよね。販売の現場もそうじゃないですか?

島田 まさに、一番の課題ですね。実店舗だと予想外の“出会いのような買い物体験”がありますよね。一等地の建築に囲まれて、普段自分が着ないようなものが並んでいても、プロの販売員と話をすることで、新しい価値観や物の背景を知ることができ、気づけばその商品を買っていたりする。リアルとデジタルの役割で思い出しましたが、以前、紙のDMに意味があるのか?という、面白い検証データを見せてもらったことがあります。それはメルマガなどのデジタルコンテンツとDMを比較して、受け取った時の消費者の脳の反応を測ったもので、その結果から、明らかにDMを受け取った時の脳の反応が顕著に好意的であることが分かったんです。世代別に見ると、デジタルネイティブと呼ばれる若い人たちこそ紙のDMが心に響く。そういった結果を当てはめてみると、実店舗は役割が変わってもなくなることはないだろうと思いますよね。

オンラインでの接客が新たに始まった今、販売員に必要なスキル。

──オンラインとオフラインの融合。どういった課題がありますか?

島田 実店舗はなくならないが、少なくはなるかもしれません。または今までのようにモノを購入する場所とは違う定義、例えば情報を発信するメディアのような場所になるかもしれない。そうしたときに、オンライン上で販売員が活躍できる場をどうつくるかが、今後の課題の一つだと思います。例えば、最近ではZoomなどのツールによる1対1の接客やライブコマースという1対多の方法が増えています。販売員がコーデ画像を発信することも、オンライン接客の手法の一つと言えるでしょうし、今後このような新たな取組は加速すると予想できます。今や、ラグジュアリーブランドもLINEのアカウントを開設するなど消費者とのタッチポイントをどんどん増やしている。ただ、SNSなどのオンラインメディアは企業からの一方通行ではなく、双方向で情報が行き来します。顧客接点の双方向化が進むなか、ブランドの価値をいかに伝えられるかも同時に考えなければならないですよね。

矢野 ラグジュアリーブランドが、ほかの一般的なブランドと大きく違う点って、“伝える情報量”じゃないでしょうか。それが膨大にある分、一気に渡されるのは、受け取る側も困難です。パーソナライズしたり、形式を変えてみたり、ブランド側は今後、より伝え方に変化をつける必要がある。先ほどのDMの話ではないですが、同じ内容でも伝える人によって伝わり方が異なりますよね。1つの映画を役者を変えてリメイクしたり、また同じ曲を別のアーティストが謳ったりすると、伝わり方が変わってくるのと同じで。伝えることが多い分、販売員の価値や果たす役割が大きくなると思います。

島田 まさにそうですね。同じ商品でも対応する販売員によって伝える内容が変わるでしょうし、その一期一会も含めて買い物の楽しさだと思います。

矢野 以前、仕事の合間にウィンドウショッピングをしていた時に、とても素敵な体験をしたことがあるんです。あるお店で販売員の方に声をかけられたのですが、「1時間しか時間がない」と伝えると、試着室に入るように言われて、その方が次々とお洋服を持ってきてくれたんです。私の好みのものもあれば普段は選ばないものもあって。最初こそ戸惑ったのですが、だんだん楽しくなってきて、最後にはまるでテーマパークに行ったかのように気持ちが高揚したのを覚えています。その時に買ったお洋服は結局一度も着ませんでしたが、不思議と全く後悔していないんですよね(笑)。

島田 それを聞くと、改めてやっぱり販売職こそAIが代用し得ない仕事ですよね。消費者の価値観を変える買い物は満足度が高い。価値観は自分ひとりではなかなか変えられないものですが、販売のプロたちが自分の殻を破ってくれることもある。この経験は今はまだデジタルでは代替できませんが、そうしたきっかけをデジタル上でも提供できるプロの販売員たちはいるはずです。

矢野 そうですね。テクノロジーが進んだ今だからこそ、それを上手く活用して人が介在してお客様へ最後のアプローチをする、という未来があってもいいんじゃないかな、と最近考えています。

島田 ECをECとしてではなく、実店舗のひとつのように店舗化していくことが求められている今、人間が上手くデジタルを使いこなしてオンライン上でも実店舗のような接客体験を提供することは、業界の未来にとってとても重要なことだと考えています。今後は、店舗が舞台ではなく、オンラインを舞台にした販売員が必要になってくることを踏まえると、今いるインフルエンサーとは違う、身近な専門家的な位置づけで販売員にSNS・ECなどでも活躍してもらうことが重要だと考えています。

矢野 オンライン上での接客だとコスメも相性が良さそうですね。メイクを変えたいけど、わざわざ店舗に足を運ぶのも億劫だったり。こちらの画像を送ることで、提案してもらえるとうれしいですよね。あと、ファッションだとすでに持っている服とのスタイリングも提案してもらえるとうれしい。店舗の接客では難しかったこともオンラインになれば簡単に提案できるかもしれない。お客様のクローゼットに一歩踏み込んだ接客が可能ですし、ニーズを満たすこともできるかもしれないですね。

島田 そうですね。お客様にとってのメリットもデジタルの活用次第で可能性が広がりますし、販売員もオンライン上でのデータを活用するスキルを身につけることで、今以上に接客の幅が広がるんじゃないかと思います。

矢野 私もコンサルティングの仕事においてOMOはすごく意識しています。この秋冬にかけて、クライアントの中には映像を活用するなどの新しいことにチャレンジする企業も増えています。そこでも、リアルの空気感や場の雰囲気をいかに落とし込めるか、日々試行錯誤しています。もはや、分断して考えることはできない。デジタルを味方にワクワクする世界観を届けていくことが、これからのファッション業界には不可欠ですね。

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ワールド・モード・ホールディングス株式会社 上席執行役員 DX(デジタルトランスフォーメーション)推進室責任者およびファンド運用部長 島田信義氏

外資系ラグジュアリーブランド、高級セレクトショップにて販売から店舗運営まで経験後、デジタルマーケティング、データドリブンマーケティング、CRM、デジタル化推進の責任者を歴任。現場経験に基づいた課題解決型のデータ分析やテクノロジーの活用を得意とする。慶応ビジネススクールMBA取得。http://wmh.co.jp/

株式会社ドラマティック代表 矢野麻子氏

アメリカ・ダートマス大学にてMBA取得後、ボストン・コンサルティング・グループを経て、2000年にLVJグループ株式会社ルイ・ヴィトン・ジャパンに入社。マーケティングマネージャー、マルチメディアディレクターを経て、2001年より株式会社セリュックスのジェネラル・マネージャー兼最高執行責任者(COO)に就任。2007年からはルイ・ヴィトンのストラテジック・カスタマーデベロップメントのシニア・ディレクターを兼任。2008 年7月に同グループを退社し、株式会社ドラマティックを設立。

Photos: Mizuho Takamura Interview & Text: Mio Koumura Digital Producer: Mio Takahashi

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August 13, 2020 at 07:45AM
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