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【コロナ後:デザイナー編】変容する社会と価値観 ファッションデザイナーの在り方 - Fashionsnap.com

 新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」。

 7人目は、昨年で創立10年を迎えた「アキラナカ(AKIRANAKA)」のクリエイティブディレクションを手掛けるAkira Naka氏。変容する社会における、ファッションデザイナーの在り方を問う。

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繋がりの重要性

 今この自粛要請の中にあって感じているのは、ファッションにおける人との繋がりの重要性だ。

 確かにマーケットを見れば、今回の劇的なダメージからEC促進を迫られるだろうし、実際にECセールスは加速すると思う。よりオンライン上でのコミュニケーションが盛んになり、様々な繋がりが画面を通したものに置き換えられていくだろう。ミーティングもトレーニングもコンサルティングも、オンラインが主流になっていくと思われる。マネージメント的な視点で言えば、この状況は非常に効率的であり、また効果的でもある。しかし同時に感じているのは、オンラインでの関係性が増えれば増える程、人は同時にダイレクトな生身での繋がりを重要視するようになるという事だ。

 自分が他者とのリアルな関係性の中でどうあるべきかを考える時に、選ばれるファッションはより意図のあるモノに変わっていくと考えられる。同調性の元にあるファッションと自他を区別するファッションの差が、より大きくなるだろう。人がそれぞれに、明快な価値や理由を服に求めるようになるからだ。

 ふさわしさに重きを置いた社会の為の自分の服を求める人にはコスパを含め彼らの基準にしっかり見合ったデザインが求められるだろうし、自己の表現に重きを置いた自分の為の社会の服を求める人には、その人の表現を満たしていく明快なメッセージや哲学が求められるだろう。デザイナーは誰に何を提案していくのか、選択を求められるのではないだろうか。

 

変容する価値観の中で

 今回のような危機を体験した人は今後、より多くの事を考え多くの基準から物事を選択するようになる。本来の価値をもう一度見直し、本当に価値のあるものは何なのかを半ば強制的に考えさせられる経験をしているからだ。このように人々の中で価値観が変容する時、デザイナーも同時にそのあるべき価値を再考するべきなのだと思う。

 新しい幸せの定義が増え、行き着く方法も多様化していく。その中でファッションがどのような力を持ち、何を提供できるのか。どんな感動や楽しみ、また学びがそこに存在し得るのかを、デザイナーは伝えなくてはいけない。装いには本質的な価値があり、人の表層ではなく中心に働きかける力がある事を伝えていかなくてはならない。そしてその美しいスタンスは視覚と知性を通して人から人へ広げることができ、社会にさえ影響を与えることを伝えるべきだ。

 社会に様々な変容がある今、個性の表現も新しく更新されていくのではと感じている。ふさわしさの変容であり、知性の定義の変化であり、美意識の変化でもある。それらをデザイナーは自らの視点で読み解き、新しい答えを打ち出す必要がある。

 大きな課題だが、時代が変わる時にその変容を炙り出してきたのは、いつの時代もファションデザイナーではなかっただろうか。

 

ファッションデザイナーの在り方

 今回の危機は強い者をより強くし、弱い者を吸収する動きが予想される。この危機に直面してデザイナー達はどこに安定を見出すかを考えた時、よりスマートな選択を求めるだろう。欧州ではインディペンデントなデザイナーはより稀有な存在になるだろうし、逆に資本力のある企業に属したブランドは様々なサービスやより高いクオリティを実現していくのではないだろうか。

 実際に自分が在籍した当時のアントワープでは、卒業生の多くが独立してブランドを築いていった。だが、今ではそのようなリスクを負う若手は非常に少ない。それよりも着実なキャリアパスを重ね、ブランド内でのポジションを選んでいくのが主流だ。先人の苦労や現実を見ればスマートな選択なのかもしれないが、ファッションに多様性が失われるのは残念な事のようにも思う。

 このような体力差がより顕著に現れる近い未来において、デジタル化が進めば日本のマーケットはどうなるのだろうか。

 現在は言葉の壁に守られている日本のファッションマーケットだが、オンライン上に国境は存在しない。そうなれば日本のデザイナーは国内のデザイナーと市場を争うフェーズから、海外の様々なブランドと直接競合するフェーズに移行する事になる。海外に出て行かないからグローバルビジネスとは関係がないと考えているデザイナーがいれば、日本自体がグローバル市場として開かれる現実を早く受け止めるべきだ。

 

チームビルドの時代

 そんな現実を目前にデザイナーに求められる事とは何だろうか?

 デザインの強さでブランドが何とかなると信じられてきた時代は終わった(実際にそんな時代は存在していない)。もちろんブランドの根底にあるのはクリエイションだが、現在のファッション市場においてブランドには新しいデザインだけではなく、クオリティ、マーケティング、戦略、ブランディング、SNSなど、多種多様なタスクが求められる。そしてそれはデザイナーと数人の仲間では背負う事のできないものになっている。今後のブランドにはそれぞれの部署に力を持つ才能を束ねたチームの力が必須になるだろう。

 意外に語られる事は少ないが、クリエイションもチーム力が鍵だと考えている。Martin Margielaにジェニー・メイレンスやパトリック・スキャロンがいたように、新しい価値、新しい好奇心を生み出すレーベルには、そのコアを理解しながら各部署でクリエイションを成長させるチームが存在する。チームがクリエイションを押し進める力となり、クリエイションがチームを駆り立て成長させる。チームと創造性の相互作用のようなものだ。

 つまり言葉を変えれば、チーム自体も成長したり、弱体化したり、デザインされる対象であるという事。デザインという行為は目の前のカッティングや素材に働きかける事であると同時に、それを変化し加速させるチーム自体に向けられた行為であり、そうすることでレーベルは一歩先のデザインに取り組む事ができる。ブランド力はデザイナーの創造性に大きく依存するが、時代を牽引してきたブランドにはそのクリエイションの陰に、名前こそ公開されていないが素晴らしい才能たちが常に存在している。

 チームをデザインする事を怠ると、すぐにコレクションに現れる。伝えようとする願望やメッセージだけで、それを達成するために注がれる個々の理解と献身が伴わない服は、人を駆り立てたりはしないからだ。デザインに携わる者が共通して常に求め続けているものは創造性と交わる事であり、それを提供するにはそれぞれのクリエイターの資質を理解し、必要な課題と新しいビジョンを与えなければならない。

 メゾンと呼ばれるブランドは、この概念がしっかりと機能している。しかし、メゾン程大きくない規模のブランドも、こういった体系を築く事はできる。メンバーが少なければより直接的に働きかける事ができるし、雇用契約がない生産背景の職人にもコンセプトやビジョンの共有は可能で、デザイナーが彼らをチームと認識しリスペクトを示す事で、彼らのスタンスにも違いが生まれる。自分がチームだとカウントしない相手が、自らチームとして認識する事はない。チームメイトであれば当然受けるべき特権を、まず彼らに提供しなければならない。

 

数字ではなくメッセージを読む

 経営的視点からすれば、こんな危機的な状況だからこそ重要なのはアナライズの再認識だと思う。日本のデザイナーズブランドはチーフデザイナーが経営者である事がほとんどで、マネージメントを特別に統括する経営陣が在籍するケースは少ない。つまり経営をデザインするのもチーフデザイナーになる。

 ではオーナーデザイナー(経営者兼デザイナー)は、現在のブランドの健康状態をどのような側面で測れるのだろう。取引先の数だろうか?プレス露出だろうか?売上高だろうか?消化率や原価率だろうか?これらはもちろん重要な項目だ。しかし数値は全て指標でしかなく、知っているだけではブランドの体質は強くはならない。

 日本には「行間を読め」という言葉があるが、羅列された数値の間にもメッセージは存在する。そこにはブランドの本来の姿や本来抱えるブランドの問題が潜んでいることが多い。それらをいかに紐解く事ができるのか、どれだけ真摯に向き合えるかは、ブランドにとって生命線になる。数字を洗い出し、チームを集めて様々な角度から分析してみる事だ。

 そうすることにより、本来は自分の体のどこが強く、どこに筋力アップや柔軟性が求められるのかが見えてくる。それらは意外と自分が思っている自分の姿と違うものだ。まず本来の自分を知り、受け止めなくては自分が走り切れる距離やスピードもわからない。そこに至る方法にもブランディングが必要であり、特にこのステージでは生産チームがどれだけクリエイションを理解しているかが鍵になる。つまりデザインが理解できないただ頭脳明晰なスタッフでは読み違えてしまうからだ。

 今、自分たちデザイナーは大きな岐路に立っているといっていい。この大きな危機に対峙して、実際に多くの傷を負っている。しかし、こんな時だからこそ見える景色があり、こんな時だからこそ決断できるチャレンジがある。また閉鎖的な時代にこそ力を発揮するのがクリエイティブな視点であり、それが職業として存在しているのはデザイナーに他ならない。

 私たちデザイナーは、デザインの力を信じ、デザインの力を決して諦めてはいけないと思う。

Akira Naka 中章
ファッションデザイナー / 「AKIRANAKA」クリエイティブディレクター。
アメリカ滞在中にテーラーと出会いデザインを始める。アントワープ王立芸術アカデミー在学中にイェール国際モードフェスティバルに選出。その後アントワープにおいてニットデザイナーに師事し2006年に帰国。07年「POESIE」をスタート。21_21DESIGN SIGHTでの"ヨーロッパで出会った新人たち展"、ROCKET GALLERYでのエキシビジョン等インスタレーションで発表を開始。2009年春夏シーズンよりレーベル名を「AKIRANAKA」に変更し東京コレクションに参加。同年ベストデビュタントアワード受賞。テキスタイルの豊かさを強みとし、2016年スプリングコレクションより"attitudeを身に纏う"をコンセプトにコレクションを展開。2019年ジョージアのトビリシファッションウィークにゲストデザイナーとして招待されショーを開催。立体裁断による洗練されたシルエットのアイテムや、北欧と日本のハンドニット技術を掛け合わせたクチュールライクなニットなどに定評がある。https://akiranaka.com/

【インタビュー】"クリエイションとはリスクを取ること" 創立10年「アキラナカ」が越えるデザイナーズの壁

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May 06, 2020 at 03:45PM
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