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ファッションの創造性を奪還せよ! ドリス・ヴァン・ノッテンとトム・ブラウンCEOの提言。 - VOGUE JAPAN

新型コロナウイルスのパンデミックが起こる前から、徐々に世界のファッションシステムには亀裂が走りはじめていた。ファッション業界の多くのリーダーたちは、たとえこの危機が収束したとしても、従来の業界のあり方に戻る選択肢はないと断じる。

去る5月12日にラグジュアリーブティックやデザイナーたちが連名で出したオンライン声明「ファッション業界への公開書簡(Open Letter to the Fashion Industry)」でも、コレクションの開催時期や回数、そしてセール開始のタイミングなど、業界が抱えるさまざまな問題が指摘された。加えてこの公開書簡では、通常、春夏シーズンは1月中旬から6月に、秋冬は6月から9月初旬にかけて供給される商品を、前者は2月から7月まで、後者は8月から翌年1月まで店頭に置くことが提案されている。

この公開書簡は、デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテンが旗振り役となり、3回のビデオフォーラムを経て作成された。トム・ブラウンクレイグ・グリーンアーデム・モラリオグルガブリエラ・ハーストマリーン・セルトリー・バーチがすでに署名し、バーグドルフ・グッドマンやレーンクロフォード、ノードストローム、セルフリッジズといった有力百貨店が名を連ねている。

「私たちは後退を余儀なくされており、業界システムを抜本的に見直さなければなりません」

ヴァン・ノッテンは、こう危機感を露わにする。同時に、ファッション業界による環境負荷を低減し、従来のファッションショーのあり方を再検討するよう呼びかけている。彼は自身のブランドを立ち上げてから25年の間、業界の潮流に迎合することなくプレ・コレクションの発表を拒み続け、独立性を保ちながら成功を手にした稀有なデザイナーだ。

未来のファッション業界がたどるべき道筋は、まだ誰にも見えていない。けれども、業界を率いるキーパーソンたちが何を考え、何を望むかを知ることは、よりよい未来を築くための出発点になるはずだ。そんな想いから、ヴァン・ノッテンとトム ブラウン(THOM BROWNE)のロドリゴ・バザンCEOに、業界の持続可能性やファッションショーの未来について話を聞いた。

危機は変革のチャンス。

毎シーズン、シアトリカルな演出で観客を楽しませてくれるトム ブラウンのショー。2020-21年秋冬コレクションには、雪に覆われたランウェイに奇妙な動物たちが登場した。Photo: GoRunway

──「ファッション業界への公開書簡」は、業界のリーダーたちが共通のビジョンのもと話し合った結果です。それらの対話が始まったきっかけは?

ドリス・ヴァン・ノッテン(以下 DVN):世界全体が隔離生活に入り、久しぶりにじっくりと未来について考えるようになりました。フォーラムのそもそもの始まりは、業界が直面している問題についてのアンドリュー・キース(レーンクロフォード社長)との対話がきっかけです。そこからデザイナーや小売業者に連絡を取り、規模が自然と大きくなっていきました。パンデミックを受けて、2020-21年秋冬コレクションのデリバリーが8月、遅ければ10月までずれ込むことが懸念されています。早ければブラックフライデー(11月27日)にも値下げが始まりかねません。

──トム・ブラウンにとって、このフォーラムの一員であることはどのような意味を持ちましたか?

ロドリゴ・バザン(以下 RB):トムや私にとって、適切な時期に販売することは常識です。今回ドリスがつくったこの機会は、クリエイターやCEO、バイヤーがビデオ会議に一堂に会してオープンに話し合ったという点で画期的です。物事が順調に運ばれているときには、そのようなことは起こりません。危機に直面しているときこそ実現するのです。

──私たちがこれほど長い間、そのスケジュールに従ってきた理由は何だと思いますか?

DVN:ファッションは以前に比べ、軽薄な存在になってしまったのかもしれません。ゆえに消費者たちも、デザインに敬意を持てなくなってしまった。それが根本的な問題です。ショーや展示会での発表から1、2カ月で店頭販売が始まり、夏に買った冬用コートを着る前に値引きが始まる。業界全体の値引き中毒は、常軌を逸しています。

パンデミック以前から、可能な限り多くのコレクションを生み出すことに意味があるのかという疑問の声があがっていました。創造性には熟成するための時間が不可欠です。立ち止まって一歩引き、自分が行っていることを確認するために、この瞬間を必要としていたのです。

RB:小売業者との会話で、2008年の金融危機前に実践していた方法でシーズンを終えるのが最善策ではないかという意見が聞こえてきました。つまり、値下げのタイミングをさらに早めるというのです。この世界的パンデミックは、金融危機とは様相が大きく異なります。アイテムの到着が遅れると分かっていながら、どうしてそのようなことができるのでしょうか? 私たちが望むのは、商品を適正価格で販売できる時間をできる限り確保するという、健全なペースです。

ショーやシーズンは必要か。

セルジュ・ルタンスの世界を再現したドリス ヴァン ノッテン2020-21年秋冬コレクション。Photo: Jamie Stoker

──書簡に署名した多くのデザイナーたちと同様、ドリス ヴァン ノッテンもトム ブラウンも、世界中に顧客を抱えています。これ以上、シーズンにこだわる必要はあるのでしょうか?

DVN:オーストラリアやLA、パリなど、気候の異なる地域に顧客がいる場合でもシーズンは大切だと考えます。コレクションを単なる商品からより崇高な存在にするには、その背後のストーリーを語る必要があります。もちろん、秋冬コレクションに軽やかなアイテムを、春夏コレクションに冬用のアイテムを取り入れることもありますが、意味のあるストーリーを編まなければいけないのです。さらには、「一過性ではなく、より長い間価値を持ち続ける商品とは何か」、「あらゆるシーンに対応できるかどうか」というように、これまで以上にデザインの本質を考えることが重要だと考えます。

RB:トムもシーズンの重要性を信じるデザイナーのひとりです。寒い時期にはカシミアを、暑い時期には涼しい素材を届けてきました。彼のコレクションのまとめ方には一定の方程式があり、その創造的なプロセスには、ある程度の反復があります。

──ファッションショーの未来や、そのためにテクノロジーが果たす役割について、どのように考えていますか?

DVN:ファッションショーはとても重要な存在です。創造のプロセスに区切りをつけることができますし、デザインやスタイリング、モデル、ヘアメイク、照明、音楽、舞台など、すべての要素が調和したときに起こる魔法の瞬間を、来場した数百人と共有できるのです。

我々は、次シーズンはデジタルで発表します。ショーの持続可能性を向上させる方法を見つける必要があり、テクノロジーとの融合に期待しています。ショー自体を中止するデザイナーもいるかもしれませんが、私にとってそれは、リハーサルばかりして一度も本番を迎えないようなものです。

RB:ファッションウィークは、バイヤーやメディアなどが一堂に会するとても効率的な機会です。ゆえにデザイナーは、より客観的に全体を見渡すことができます。バイヤーたちにとっても、オンラインで少量を発注することはできるかもしれませんが、大きな予算の場合はサンプルを実際に見る必要があります。ショーを開催できない外因に対してはクリエイティブな代替手段を考えることが賢明だと思いますが、やはりショーは、業界のさまざまなステークホルダーと創造的なコミュニケーションを図るのに最も効果的な方法です。

クリエイティブな持続可能性の実現。

トム ブラウンは2020-21年秋冬シーズン、ブランド初となる男女合同ショーを開催した。Photo: Jamie Stoker

──ファッション業界における持続可能性に、ますます厳しい目が注がれています。ブランドの環境負荷をどう減らしていこうと考えていますか?

DVN:良識があれば、例えばコピー機の使用削減から商品の発送方法の再考といった細部に至るまで、全てが然るべき場所に収まるはずです。昨シーズン、私たちが使ったポリエステル素材は100%リサイクルペットボトルからできています。また店舗への配送時、ジャケットを個別包装する代わりにシャツに重ねるなどして、包装材の使用量を半減しました。レーンクロフォードのアンドリュー・キースは会議の中で、どのブランドにも対応できる無記名のハンガー導入を提案しました。

残念ながら、ファッションが完全なる持続可能性を実現するのは難しいかもしれません。けれども、各々が最大限の努力をすれば大きな前進になることは確かです。ただ、チームとの対話から見えてきたことは、顧客に対し、eコマースサイトでできる限りの情報提供をする必要性です。そのためには、生産過程や生地の詳細など、顧客が本当に求める情報とは何かを理解しなければいけません。

RB:トムは服をデザインするとき、常に20年後の姿を想像しています。シーズンらしさを押さえながら、できる限り普遍的なデザインを心がけたり、生産数を正しく管理することで、時代を超えるワードローブを提供することができます。さらに、業界全体として商品の配送や素材の調達方法にさらに配慮すれば、正しい方向に大きく前進していくはずです。

──フォーラムにどんな成果を期待しますか?

DVN:私たちは強制的な「ファッション・ポリス」になろうとしているのではなく、個々のブランドがそれぞれのクリエイティブな解決策を見つけるためのヒントを与えたいと願っています。プレコレクションを開催しているデザイナーであれば、それをメインのコレクションに組み込むことも検討できるはずです。

必ずしも私のやってきたことが正しいとは思いません。ドリス ヴァン ノッテンのコレクションは大規模ですし、ショーの3カ月後に商品を店舗に届けるためには生地を事前に発注しなければならず、できる限り正確に見積もったとしても、素材の余剰は避けられません。ブランドによって、取り組むべき課題の優先順位は異なります。けれどひとつ共通しているのは、パンデミックによって変更を余儀なくされたスケジュールに合わせる勇気を持つということです。

RB:フォーラムは、素晴らしいアイデアを交換できる場です。このフォーラムはブランドのためでも小売店のためでもなく、業界全体のためにあります。ファッションの創造性が息を吹き返す機会を逃すべきではありません。

ドリスもトムも、今日までの経歴は似ています。2人とも、時間をかけて着実にビジネスを築き上げてきたクリエイターです。最近企業から出資を受けたという点でも共通しています(2018年6月にプーチがドリス・ヴァン・ノッテンの過半数の株式を取得し、同年にエルメネジルド・ゼニアもトム・ブラウンの株を85%取得している)。両社とも、配慮の行き届いた健全な姿勢を保っていますが、フォーラムを通じてさらに優れた方法を見いだすことができれば、この危機をチャンスに変えることができると信じています。

Text: Liam Freeman

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June 17, 2020 at 05:00PM
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