スーツを着ていればなんでも許されてしまう……なんて思い込みを捨てたほうが未来は楽しいはず。
「入社30年の特別休暇を使って同期とハワイに行ったんですが、ひとりだけスーツで来たやつがいるんですよ」
日本の男性はスーツさえ着ていれば、どこに行っても失礼はないと考えがちである。しかし、スーツでハワイは常夏の太陽に失礼だろう。真面目な話をすれば、この男性はおそらく私服を持っていなかったのだと思われる。長年、聞き取り調査を続けてきた経験から言わせてもらうと、中高年男性には「友達がいない」「趣味がない」という2つの特徴がある。要するに働いてばかりでプライベートがないため、私服は不要というわけだ。
それでは、仕事中の服装にはこだわりを持っているのだろうか。スーツにネクタイというスタイルは、高度成長期以降、「働くこと」が「会社に雇われて働くこと」とほぼ同義になっていくのにしたがって一般に定着する。1960年代には百貨店、1970年代になるとスーパーや紳士服量販店で既製品のスーツが売られるようになった。色は黒か紺でどれも同じような形をしている。こうした非個性的なスーツを身に纏うことこそが、現代の日本社会における大人の男性の「まともさ」を表現してきたと言える。
日本では、「男性は学校を卒業後はすぐに就職し、定年退職まで働き続けるべきである」という「常識」が非常に根強い。男性は働いてさえいれば大抵のことは許されてしまう。身なりに関しても、働いているかぎりは無関心が許容されてきたのである。逆に、いくら多趣味で友達がたくさんいても無職だと立つ瀬がない。「犯人は40代無職の男性です」という報道には、多くの人が「納得感」を持つ。
女性がいくつになっても「若々しさ」や「美しさ」といった観点から評価されてしまうことを考えれば、男性はファッションを気にしないで済むという「自由」を手にしている。見方を変えると、男性は色も形も画一的な服装しか許されない「不自由」を強いられているとも言える。もちろん、ジェンダー・ギャップ指数の国際的な順位の低さなど、日本における男女の不平等が話題になることからも分かるように、仕事、家庭、そして地域といったさまざまな場面で女性に課せられている「不自由」に比べれば、ささいなことかもしれない。
しかし、男性が社会的に作られた〈男らしさ〉/〈女らしさ〉であるジェンダーに当事者として向き合うきっかけとして見たとき、男性とファッションの関係について考えてみることには価値がある。自分が何を着ているかは、どのような日常を送っているのかと強く関係している。無難なスーツとネクタイは、仕事を中心とした男性の生活の象徴であるとともに、実質的にそれを支えている。性別は女性だけではなく、男性の生き方にも大きな影響を与えているのだ。
一般的な男性に比べてファッションに関心が高く、仕事やプライベートで服装に気を使う男性さえ〈男らしさ〉からはみ出すことは難しい。たとえば、いまだスカートを穿く男性の数は少ない。生物学的にスカートは女性向きで、男性には向かないなどということはありえず、「男性はズボン」/「女性はズボンとスカート」というルールが社会的に共有されているにすぎない。「すぎない」と表現したが、こうした「常識」が行動に与える影響は大きく、もし普段はズボンばかりの男性が、スカートを穿いたら「居心地の悪さ」を感じてしまうはずだ。
現代の日本では、社会の中で期待される〈女らしさ〉を自分や他人に押し付けることが、問題として広く認識されるようになってきた。他方で、〈男らしさ〉についてはそのような理解はあまり浸透していない。男性自身が〈男らしさ〉によって強いられている「不自由」について十分に理解できていないことが、大きな原因のひとつだろう。クローゼットを開け、お気に入りの服を着て、鏡で全身を見て欲しい。そこには、男としての自分に何が課せられてきたのかがうつっているはずである。
田中俊之 (たなか としゆき)
PROFILE
1975年生まれ。大正大学心理社会学部准教授。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教を経て、2017年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。
写真・Niki van Velden / Getty Images
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November 03, 2020 at 07:06AM
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